作品番号K 〜 モーツァルト作品の散逸を防いだケッヘル番号という名の偉業
2011-04-05 : ピアノレッスンこんにちは、FUKUON 福田音楽教室
ピアノ講師☆福田りえです。 (*^-^)/
続々と作品番号についている「文字」についての質問をいただいています。ご質問、ありがとうございます!
それでは今回は「Kってなんですか?」について見ていきましょう。
作品番号「K」ってどの作曲家の記号なの?
まず「K」は「ケッヘル」と読みます。
「K」はドイツ語のKöchelverzeichnis(ケッヘル)の頭文字の「K」なんです。
そのため「K」がついている楽曲の作品番号は「ケッヘル番号」と呼ばれます。(ケッヒェル番号ということもあります。)
そしてケッヘル番号とは、あの天才ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが残した作品を、作曲された順に整理してつけられている世界共通の認識番号。
つまりモーツァルトの作品を表すのがケッヘル番号なんです。
ところで、ケッヘル番号の表記の仕方は国や地域によって多少違いがあります。
たとえば「トルコ行進曲」で有名な「ピアノソナタ第11番イ長調」の場合は、
- 日本や英語の国々:「K.331」
- ドイツ語圏の国々:「KV331」
- その他の国や地域:「K331」
という具合です。
「K.」でも「KV」でも、あるいは「K」であっても、どれも同じモーツァルトの作品を表すケッヘル番号なので間違えないようにしましょう。
ケッヘル番号は誰が作ったの?
モーツァルトの作品を表すケッヘル番号を作ったのは、その名の通りケッヘルさんです。
ルートヴィヒ・フォン・ケッヘル
(Ludwig Alois Ferdinand Ritter von Köchel 1800年 - 1877年)
オーストリア生まれの作曲家で音楽学者、鉱物学者、植物学者です。
ケッヘルが生まれた1800年は、モーツァルトが謎の死を遂げてから9年、まだハイドンやベートーヴェンは生きている、そんな時代でした。
比較的裕福な家庭で育ったケッヘルは、優秀な成績で学校を卒業。
ウィーン大学で法律を学んだ後は、高名な貴族や大公の家庭教師を歴任し、宮廷での暮らしが続きます。
いやはや、とっても頭脳明晰な人だったんですね。^^
家庭教師を退任した後は、レオポルト騎士団勲章授与、ウィーン楽友協会の副総裁選出、ウィーン帝立動植物協会の終身会員など華々しい活躍を続けます。
さらにバロック音楽の大家ヨハン・ヨーゼフ・フックスさんの伝記と作品リストを作ったことでウィーン楽友協会の名誉会員になるなど、様々な音楽学上の論文も残していきます。
またフランツ・シューベルトやヨハネス・ブラームスとの交友も知られているんですよ。
そんな中、1850年ころにモーツァルトの故郷であるザルツブルクへと移ったケッヘルの元へ、友人の著書『モーツァルトのこと』が送られてきました。
モーツァルトの作品が散逸してしまうのではないかという懸念が書かれているのを読んだケッヘルは激しく心を動かされ、いよいよモーツァルト作品の目録作りに邁進していったのです。
しかし、断片まで含めると900曲以上の作品を残した大作曲家の目録を作ることは、想像以上に困難を極めました。
膨大な量にのぼる資料を精査し、徹底的に調査、研究して年代順に整理しなおしていくという、気の遠くなるような地道な作業が続いたのは想像に難くありません。
そして遂に1862年、『モーツァルト全音楽作品年代別主題目録(Chronologisch-thematisches Verzeichnis sämtlicher Tonwerke Wolfgang Amadeus Mozarts)』として、今も現存するドイツの楽譜出版社ブライトコプフ社から出版されたのです。
ブラボー!^^
完成した目録の中にはモーツァルトのそれぞれの作品に関するいろんなデータが詳細に記載されているそうですが、同時に作品には通し番号が振られていました。
それが後のケッヘル番号となるんですね。
ケッヘル番号の過去と現在1:改訂版は出るけれど
ケッヘル自身のよる最初のケッヘル番号の発表以降も研究が進められ、これまで何度も改訂されてきています。
特に1937年のアルフレート・アインシュタインによる第3版、そして1964年の第6版では大きな改訂が行われました。
作品が作られた年代が見直されたり、新たな曲の発見や、失われたと思われていた曲の再発見がなどあり、ケッヘル番号はそのたびに変更が加えられています。
しかし改訂版は初版に敬意を表して書かれていること、新しい番号はわかり難いこと、長年に渡り初版が親しまれてきたことなどから、いまでも最初のケッヘル番号で通じることが多いようです。
ちなみに、どれくらい新しい番号がわかり難くなっているかというと・・・。
〜ここから引用〜
アインシュタインによる第3版以降では、初版の番号を尊重しつつ、作品の成立時期を明確化するために「K.173dB=K.183」(新番号=旧番号)のように二重番号制が採られた。〜ここまで引用〜
新番号には、アルファベットが使われる。
たとえば、K.173とK.174の間に成立したと見なされた作品には、K.173a、K.173b、……のように小文字を追加する。さらに、K.173dとK.173eの間に成立したと見なされた作品には、K.173dA、K.173dB、……のように大文字を追加する。
ケッヘル番号 - Wikipedia
うはっ、後付すると正確にはなりますが、直感的にわからなくなりますよね〜。^^;
なお現在最新のケッヘル番号は第8版となっているそうですよ。
ケッヘル番号の過去と現在2:モーツァルトの家族とケッヘル番号
実はケッヘルがモーツァルトの作品目録を世に送り出す以前、ほかにも目録を作っている人物が二人います。
ひとりは他ならぬモーツァルト自身です。
モーツァルトは1784年以降の自身の作品に関して目録を残しているんですね。
第2子カールが誕生した28歳から、1791年に35歳でこの世を去る直前までの176曲の作品目録です。
ご存知のようにモーツァルトの記憶力といったら超人級ですから、改訂が進んだケッヘル番号であっても彼自身が作った目録部分はそのままのことが多いそうです。
さっすが神童モーツァルト!!
そしてもう一人は、そのモーツァルトの父であるレオポルト・モーツァルトです。
3歳でチェンバロを弾きこなし、5歳にして作曲する幼い我が子に音楽の才能を見出していた父レオポルトは、モーツァルトの幼少のころの作品目録をしっかり残しているんですよ。
そしてその後、父レオポルドは少年モーツァルトを連れてヨーロッパ中を旅し、各地の王侯貴族に売り込み、多くの賞賛と名誉、それにたくさんの富を手にすることになるんですが...。
ところでモーツァルトにはナンネルという愛称のお姉さんがいました。
ナンネル自身も豊かな才能を持っていましたので、父レオポルドは『ナンネルの楽譜帳』とよばれる教材を作り、音楽の英才教育をほどこしていたんです。
しかし弟がメキメキと頭角を現し姉ナンネルを追い抜いてしまったため、『ナンネルの楽譜帳』は弟のための教材となってしまいました。
実はそのとき幼いモーツァルトは『ナンネルの楽譜帳』の中に、自分で作曲した4つのピアノ曲を書き込んでいたんですが・・・
ビリッ!! Σ(゚Д゚;)ゲゲ
なんと姉ナンネルが切り取ってしまったため、その後長い間行方不明の曲となってしまったんです。
お、おねぇちゃん...。^^;
しかし、「ビリッ!」からおよそ193年も経った1954年。
奇跡が起こります。
姉ナンネルが切り取ってしまったモーツァルトの4つのピアノ曲の楽譜が、なんとロンドンで発見されたのです。
そしてそこには父レオポルドによる「5歳の最初の3ヶ月」というメモ書きも。
それまでモーツァルトの最初の作品『K.1』だと考えられていたのは、現在の『クラヴィーアのためのメヌエット ト長調 K.1e』と『同 ハ長調 K.1f』でしたが、この発見と父のメモ書きにより、
- クラヴィーアのためのアンダンテ ハ長調 K.1a
- クラヴィーアのためのアレグロ ハ長調 K.1b
- クラヴィーアのためのアレグロ ヘ長調 K.1c
- クラヴィーアのためのメヌエット ヘ長調 K.1d
の4つの曲がより古い曲として追加されたんです。
おねぇちゃんの「ビリッ!」のおかげで、長い時を越え、ケッヘル番号が書き換えられてしまったというお話でした。^^;
ケッヘルの成し遂げた偉業の意味
モーツァルト自身が残した28歳以降の作品目録と、父レオポルドが残した幼少期の作品目録。
しかしその間には15年間ほどの空白の期間があるといわれています。
もし後年ケッヘルが、苦難の末にモーツァルトの全作品目録を完成しなければ、神童と呼ばれた大作曲家の楽曲の多くの部分が散逸してしまったのではないかとも思われています。
友人がその著書で書いた
モーツァルトの作品が散逸してしまうのではないかという懸念が現実のものとなっていたかもしれないんですね。
それだけにケッヘルの成し遂げた目録作りは、まさに偉業というに名に値するものだったと思えてきます。
ケッヘルさん、本当にありがとうございます。
さて今回の魔法は…
(〃^∇^)ノ~エイ*・゜゜・*:.。..彡☆
自分のピアノのレパートリーに通し番号をつけてみよう♪
そうです!
自分がピアノで弾ける曲に自分なりの整理番号をつけることで、いつでも弾けるよう準備できるんですよ。
あなたの偉業は、あなた自身の手で成し遂げてみてくださいね。
さぁ みなさん!
今日も楽しいピアノレッスンを♪ ・∀・*)ノ
*:゜・*:.。.*.。.:*・・*:.。*・
【関連記事】
ケッヘル番号以外の作品番号についてはコチラも。^^
【関連書籍】
モーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書)
レオポルド・モーツァルト ナンネルの音楽帳
【参考Webページ】
他