作品番号Anh(アンハング) 〜 音楽史のアレコレが一杯詰まった追加・補遺のための整理番号
2011-04-10 : ピアノレッスンこんにちは、FUKUON 福田音楽教室
ピアノ講師☆福田りえです。 (*^-^)/
今回ご紹介する作品整理番号は「Anh」です。
割りとよく見かけるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
「追加」「補遺」のAnh=Anhang
Anhはドイツ語の「Anhang」の略で、直訳すると「付録」や「付記 」あるいは「後付け」となり、「アンハング」と読みます。
そこから転じて、クラシック音楽の楽曲整理上では「追加」という意味を持っています。
難しい学術的な言い方をすれば「補遺」となります。
そういったことから作品番号「Op.」やバッハの「BWV」、モーツァルトの「K.」など、従来からある作品整理番号に追加するような場合に付けられています。
「え?それじゃあちゃんと作品の番号に組み込んじゃえばいいのでは?」と思われるかもしれませんね。
「Op.」や「BWV」の新たな番号として加えればいいんじゃないの、というわけです。
しか〜し、そう簡単ではないんですよね〜これが。^^;
「追加」以外にも複数の意味で用いられる「Anh」
実はAnhには「追加」という意味以外でも使われることがあり、単純に新たな作品整理番号として追加するわけにはいかないんですね。
それ以前に、そもそも作品整理番号を追加するということは大変な手間と時間がかかるものなので、ひとつ追加するたびにホイホイと変えるわけにはいかないんですが...。
では「追加」以外にどんな使われ方をしているのか見てみましょう。
「偽作」としての「Anh」
「偽作(ぎさく)」とは、実はその作曲家の作品ではなく別の作曲家の作品である、という意味です。
有名なところでは、ピアノ発表会などでも演奏される機会の多いJ.S.バッハの「メヌエット ト長調 BWV Anh.114」と「メヌエット ト短調 BWV Anh.115」があります。
この2曲はバッハの作品として長く親しまれていましたが、音楽学者ハンス=ヨアヒム・シュルツェの研究によって、ドイツの作曲家クリスティアン・ペツォールトのものであると修正されたんです。
何故そんなことになったかというと、バッハが本当の作曲者であるペツォールトの名前を伏せて、『アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳』という手稿譜に入れてしまったから、なんですね。^^;
現在でもバッハの曲として紹介されることも多いのですが、「BWV Anh.114」としっかりAnhがついているんですよ。
「疑作」としての「Anh」
「疑作(ぎさく)」とは、本当にその作曲家の作品なのかどうか疑問・疑義がある、という意味です。
先ほどの「偽作」はすでに別人の曲であると確定していますが、この「疑作」はまだどちらとも言えない、確定的なことはまだわからないという作品ですね。
有名なところでは「♪チャラリ〜鼻から牛乳〜」でお馴染みJ.S.バッハの『トッカータとフーガニ短調』や、モーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第7番』などです。
「疑作」は最初に作品整理番号が付けられたときから疑義があればAnhが付き、あとから疑義が出てきた場合は「偽作」として確定されるとAnhが付くようです。
この辺りのさじ加減は作品目録を編纂した音楽学者の考え方によるのかもしれません。
「紛失」した作品としての「Anh」
その作曲家自身による自筆譜か、信頼の置ける写譜が失われた作品の場合にAnhがつくことがあります。
つまり証拠がないので、本当かどうかわからない、というわけですね。
「断片」しかない作品としての「Anh」
これも楽譜の「断片」しか残っていないので本当かどうかわからない、というわけですね。
また、後から断片が発見されたため「追加」された場合もあります。
「贋作」としての「Anh」
「贋作(がんさく)」とは、他人が作曲したものを自分のものだと偽って発表された作品、あるいは自分が作曲した曲を昔の巨匠の曲として発表した、という意味です。
有名な贋作としては、モーツァルトが10歳のときの作品であるとして発表された、ニ長調のヴァイオリン協奏曲『アデライード協奏曲 K.Anh.294a 』があります。
実はこれ、20世紀のヴァイオリン奏者で作曲家であるマリウス・カサドシュが、自分が作曲したものをモーツァルトの名前を騙って発表したものだったんです。
贋作であることを白状したあと、モーツァルトの作品目録では「K. Anh. C 14.05」に変更になりました。
こういうことも、あるんですね〜。^^;
それでは聴いてもらいましょう。
贋作『アデライード協奏曲』です。
変化し続けているクラシック音楽の世界
さて、今回で作品整理番号についている「文字」については最終回にします♪
まだまだ、作品番号はたくさんあるのですが、良く知られているものだけご紹介してみました。
いかがでしたか?
さてさて、今日の魔法は…
(〃^∇^)ノ~エイ*・゜゜・*:.。..彡☆
知れば知るほど面白い音楽史
もしかしたらクラシックの世界は古くて硬直している、というイメージがあるかもしれません。
もう何もかも決まっちゃっている世界なんだ、とかね。
でも違うんですよ。
今でも研究の最中で、新しい発見が常に起こっているんですよね。
ここまでご紹介してきた作品整理番号のお話を通じて、その一端でも感じていただけたらなぁと思います。
さぁ みなさん!
今日も楽しいピアノレッスンを♪ ・∀・*)ノ
*:゜・*:.。.*.。.:*・・*:.。*・
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